第3章 〜ぬくもり〜(アンリ)
私が桜城に来てから数年経った頃──
音楽規制法が無くなった。桜城の皆や,色々な人の活動が実を結んだのだ。
そのため,今日本では『音楽ブーム』が巻き起こっている。メディアは連日,音楽に関することを大々的に取り上げ,街行く人々は音楽の話をしている。
日本は大きな変化を迎えたのだ。
そして桜城でも大きな変化が起こった──
元々素性を隠してソロギタリストとして活動し,世界的な評価を得ていた奏さんが素性を明かしたのだ。
そのため奏さんが所属するSilverVine,SilverVineが出ていたOwn The Nightのステージ,Own The Nightに出ていたHOUNDSというように芋づる式に次々と注目されることとなった。
そして桜城に住むHOUNDS,SilverVineの皆は有名人となったのだ。
まあ有名人と言っても,皆は変わらないし,前と変わった所はよく桜城にメディアが押しかけるようになって出掛けるのが大変になったことぐらいだ。
…ただし,HOUNDSとSilverVineの皆はそうでもないらしい。
よく街で声を掛けられるようになったと響一郎さんが言っていたし。
前に律くんがゲッソリした顔で帰ってきて どうしたの!? と声を掛けると,銀波律だということがバレて,人に囲まれ大変だったという話も聞いた。
(そんなに大変なんだ...)
と思いつつ,恋人であるアンリくんにも何か大変なことがないか聞いてみると,
「大変なこと?ないない!!
俺には歌恋ちゃんもカナデ様もキョウさんも,みんな居てくれるから全然大変じゃないよー!」
と,いつものアンリくんらしく明るく笑っていた。
…けれど,元々会社でモテていたアンリくんのことだ。恐らく会社ではもっとモテるようになったんじゃないかな。
皆が注目されてる今,それぞれの実力が認められてきている。その上皆かっこいいからモテるのは当たり前。
アンリくんの彼女として,それはとても複雑な心境だった。
このままアンリくんや,皆の実力が認められるのはとても嬉しい。
けど…同時に,実力が認められたらもっと大きな世界に皆は出ていくことになると思う。
そうしたら,私より良い女性が現れるかもしれない。すごく美人で,綺麗な女性…
それを想像しただけで,私の胸は軋んだ。