第3章 〜ぬくもり〜(アンリ)
「…歌恋ちゃん?大丈夫?」
「え?ぁ,うん…」
不安が顔に表れていたのか,アンリくんが心配そうな声を掛けてくれた。
けれど,本当のことを話したら独占欲が強いと思われそうで…そうしたら,アンリくんに嫌われるかも──
そう思うから,本当のことは話さなかった。いや,話せなかった。
「そう?…でも」
「え?わっ……」
そこまで言って,アンリくんは急に私に顔を寄せてきた。正直心臓がもたない。
「ちょ…あの,近…」
「やっぱり,不安そうな顔してる」
「え…?」
「何かあるなら言ってよ?俺は歌恋ちゃんの恋人なんだからさ」
「で,でも本当に何も無いよ?」
そう言って笑ったけど,アンリくんには誤魔化しが効かなかった。
「んー…やっぱりなんかあるでしょ。そんな気がする。
それとも…俺には話せないこと?俺ってそんなに頼りない?」
「ち,違うよ!!アンリくんは頼りないわけじゃないよ」
「じゃあ…話してくれる?ゆっくりで良いからさ」
そう言ってくれるアンリくんは本当に優しい。
──そして,そんな彼に嘘をつく私は本当に最低だと思った。
座って話してもいい? と聞くと 良いよー といつものアンリくんらしく承諾してくれたから,ベッドに2人で腰掛けて話し始めた。
「最近,アンリくんやSilverVineが有名になったでしょ?」
「そうだねー,カナデさんが大々的に公表しちゃったもんねー」
「それで…えっと……」
「うん」
「…」
(何で…素直に言えないんだろう)
何故言えないんだろう。言ってしまえば楽なのに。アンリくんへ隠さず言えたら良いのに。
そう思う毎に焦燥が募っていく。
そんな私を見兼ねてか,アンリくんがこう言った。
「あのさ,話しにくいことなら別に良いよー」
「え…?」
「だってさ…お互い言い難い事はあるじゃん!それは,ゆっくり時間掛けて話せば良いんじゃない?」