第3章 〜ぬくもり〜(アンリ)
アンリくんに限って浮気とかそういうのは絶対に無い。けれどやはり芸能界には沢山の美しい女性が居る。そんな女性達に目を奪われるかもしれない。そもそも女の私でさえ美しいと思う女性だって多いのに…
そう考えただけで本当に気分が落ち込んで,不安になった。
…そんな風に不安になることが増えて,一ヶ月程経ったある日の夜──
ちょうど満月の宵だった。綺麗に煌々と光る月を見ながら,自室で再び不安に耽っていると,不意に控えめな声がドアの外からした。
「歌恋ちゃん?起きてる?」
「……え…?アンリくん?」
声の主は,アンリくんだった。メディアに取り巻かれて,その上ここ二週間ぐらいは仕事も忙しかったらしく,全然会えて無かったのに。
「入っても良い?」
「良い…よ」
驚きつつも了承すると,ガチャリと音がした。
「お邪魔しまーす」
そう言って,私の部屋に入ってきたアンリくんは,お風呂に入った直後らしく,しっとりと髪が濡れたままだった。そんな少し色っぽい姿に密かに胸を高鳴った。
どうにか顔には出さないようにしつつ,尋ねたかったことを聞いた。
「どうしたの…?最近忙しいんだよね?疲れてるんじゃ…」
「ううーん,確かにちょっと忙しかったけど…
それより歌恋ちゃんに会いたかったから!」
そう言ってアンリくんは顔を近付けてくる。ただでさえ心臓が痛いのに,これ以上はやめて欲しい。
その心から思わず大声で叫んでしまった。
「ちょ……あ,アンリくん顔が近すぎるよ!」
「え,そーお?ていうかみんな寝てると思うから静かにね?」
「ぇ,あ,うん…」
(確かにそうだけど!!そもそも私の心臓煩くさせないでよアンリくん!)
こんな風に心の中で叫びつつ,一応心配なことも言っておいた。
「会いに来てくれたのは嬉しいけど,明日も会社だよね?早く寝た方が良いんじゃ…」
「ううん,明日は休み取れたから大丈夫!
歌恋ちゃんも明日休みでしょ?」
「え,そうなの?ていうかなんで休みの日覚えて…」
「そんなの決まってるじゃん。歌恋ちゃんと過ごそうと思ったんだー!」
「本当?ありがとう」
悪戯っ子のように笑うアンリくんが,可愛らしく思える。
でも,アンリくんを見るとさっきの不安が蘇ってきてしまった。