第3章 ゆっくり近づいていく恋
このバイトを始めて3年目。
マシンの取り扱いにも慣れた。コーヒーの知識も増えた。緊張から来る作り笑いもなくなった。
スタッフの中でも古株で、馴染みのお客さんにはちょっとした世間話もできるくらいの余裕が出てきた頃に、その子は現れた。
陽が当たると、少し茶色く見える髪の毛。
色素の薄い瞳に、ぽってりしたピンク色のくちびる。
深緑の制服が白い肌に映えてて、よぉ似合てる。
細くて小さくて、あぁ、ぼくが力いっぱい抱きしめたら壊れてしまうんとちゃうやろか なんて真面目に考えてしまった。(なんやねん変態とかゆうな!)
とにかく僕は、一目見て、彼女に恋をしてしまったのです。
毎週水曜日の朝8時、必ずカフェラテを頼む彼女。
君の名前は?年は?どんな男性がタイプなん?
そう聞きたいのをグッとこらえて、今日も笑顔を作る。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
*
最寄り駅の裏にある大手米国系コーヒーショップ
緑の多い住宅街側にあるからか、ほどよく空いていて 穴場のお店。
水曜日の朝から夜までと平日の夕方に、その人はいる。
すらりとした長身に深いグリーンのエプロンがよく似合っていて、クールそうに見えるのに、にこにこ笑顔でゆるーい関西イントネーションの柔らかい接客をする、おおくらさん。
今日も めちゃくちゃ かっこいい です♡(白い歯が眩しい!)
時間がある時にはさりげなく可愛いラテアートを施してくれるから、おおくらさんはとても人気。
少しでも顔を覚えて欲しくて、笑いかけて欲しくて、話しかけて欲しくて、私は今日も苦手なメニューを頼む。
「ラテ、ホットのトールでお願いします」
*
「お客さんナンパすなよ」
「⋯わかってるよヨコヤマクン」
「なんで片言やねん横山先輩とよべ」
「あぁもうなんであんな可愛いんやろか♡」
「話をきけ新しいドリンクの練習せぇ」
ブラックエプロンをした横山くんが手際よくカップにドリンクを注いでいくのを横目で見ながら考える。
きみのなかに、ぼくはいますか?