第34章 宿題もおやつに入りますか?
めいこ「あ、私、ガラケーだから誰も拾わないかなーって」
「ほぉ、ヴィンテージ好きですか?」
めいこ「いやいや皆に持っちゃダメって言われてるだけです」
おや、と、眉毛を少しあげた後、優しいため息をついた。
「仕方ありませんね。では、見てからに…」
そう言う前に、もうめいこは水槽に釘付けだ。
めいこ「あぁ〜!あともうちょっと背が高ければ〜」
爪先立ちでよろめきながら見ている彼女が、どこか妹のようだなと木手は思った。
「俺の足、踏んで良いですよ」
目の前に居た女子客何人かが、もの凄い勢いで振り向いた気もする。
そんなことはおかまいなく、ヒョイと脇を抱え、自分の足の甲に乗せた。
よく妹にするみたいに。
「これで少し見えやすいでしょう」
めいこ「えわ!ありがとう」
めいこはさっそく足の甲からずり落ちた。
ワタワタと体勢を立て直していると、何度か背後の彼に当たってしまい、
「あ、こら」と、言われる。
「あんまり暴れないで下さいよ?」
めいこ「う、すんません」
めいこはおずおずと、前に回された腕にしがみついた。
妹と同じ感覚で行動したことを、少し後悔した木手。
彼女の方が幾分背が高く、女性の体つきだった。
雑念が生まれそうだったので、違う話題を切り出す。
「そういえば、まだお互いの名前を聞いていませんでしたね」
めいこ「あ、確かに」
「木手永四郎(きて えいしろう)です」
めいこ「和栗 めいこです」
先程振り向いた彼女たちは
「その密さでカレカノでもなければ初めましてかよ!」
と、心の中で叫んだ。
ショーは過剰に入り、音楽と映像のミックスが映し出される。
相変わらず優雅に泳ぐジンベエザメ。
その動きに合わせて映像が変わっていく。
めいこ「わ、わぁ〜すごい!木手さん木手さん!」
無邪気に振り返っためいこの顔が、近距離にあった。
木手は胸を銃で撃たれたような感覚になったが、何故なのかさっぱり分からない。
木手「…えぇ、そうですね」
とだけ、冷静を装って言うので一杯一杯であった。
一方その頃氷帝人。
向日「もう俺、嫌な予感しかしない」
鳳「分かります」
向日と鳳は、水槽を眺めても、気が気じゃないのだった。