第31章 【過去】早朝バス(跡部)
強いバスの揺れで、彼女がこちらにもたれてきたが、不思議と嫌ではなかった。
これも、ごく普通の出来事かもしれない。
でも跡部にとっては、財力も地位も何も関係ない、貴重な時間だった。
跡部「着いたぞ」
結局他の生徒は乗って来ないまま、終点である我が校に着いた。
彼女の肩を優しく叩くと、のろのろと目が開けられる。
2、3度瞬きをして、やっと今の状況を理解したらしく、弾かれたように身体を起こした。
めいこ「わっ?!ごめんなさっ!」
跡部「フッ、後で仮眠しとけよ」
跡部は肩に鞄を担ぐと、颯爽と出口に向かう。
「あ、お客さん、そこタッチしていってね」
料金箱の前をスルーしようとすると、運転手に呼び止められた。
跡部の耳が、僅かに熱くなる。
直ぐ後ろで待っていた彼女は、クスクスと無邪気に笑っていた。
幸い、この格好悪い姿を見たのが1人だけで、内心ホッとする。
跡部「じゃ、またな」
めいこ「はい」
そう言って門前で別れて行く。
今から同じ学校に入るというのに変な話だが、ここはマンモス校と呼ばれるほどの、敷地面積と生徒数。
安安と会えるもんじゃない。
それでも、僅かばかりに、なぜかまた会いたいと思って、俺はそんな台詞を言った。
いつもと違う朝というのも、なかなかに、良いものだ。
すっかり青になった空は、晴れやかな1日を教えていた。
【END】