第30章 【番外】君の笑顔が好き(芥川)
うだるような暑さの中、蝉はそれに増して元気に鳴く。
テニスコートはモワッとした湯気が立ち上り、走る部員達の足元が幽霊のように揺らいでいる。
芥川「あ〜あつー…」
休憩の声がかかり、唯一の日陰であるベンチに、ゆっくりと腰かける。
顎から滴る汗が、コンクリートに落ちてあっという間に蒸発していくのを、芥川はぼんやりと見ていた。
めいこ「ホントですね、またプールで水浴びたいです」
めいこは胸元をパタパタと引っ張って、風を送っている。
芥川「Eーね、こっそり行っちゃう?」
めいこ「えっ」
跡部「オラ、聞こえてるぞ」
後ろから跡部に、頭部をコツンと小突かれた。
芥川「だってさー跡部ぇー俺もう干物になっちゃいそうだCー」
跡部「ったくしゃーねーな、ちょっと待ってろ」
跡部はそう言うと、樺地を連れてテニスコートを後にした。
めいこ「えっ?マジでプール入れるの?」
芥川「え、マジ?」
数分後、樺地は何か大量の物を抱えて戻ってきた。
芥川「あっ!スプリンクラーじゃん」
めいこ「やったー!オアシス!樺地君手伝うよー!」
めいこと芥川は、樺地のところまで走って物を受け取ると、テニスコートにそれぞれ設置した。
樺地が手を上げて何処かに合図すると、数秒後にホースがうねり出し、回転しながら水飛沫が隅々まで迸る。
太陽に煌めくそれに、芥川は突っ込んで行った。
芥川「うひゃ〜!」
スプリンクラーの周りを喜んで走っている。
めいこ「きもちー!」
霧状になった遠目から、めいこも水の涼しさを楽しむ。
向日「あっずりぃ!俺も!」
向日も芥川に混じって行くと、他のメンバーも次々に浴びに行った。
めいこ「あーあ、ビッショビショ」
はしゃぐ皆を見ながら、めいこは楽しそうに笑う。
跡部は蛇口を回しに行っていたようで、いつの間にかベンチに座っていた。
めいこ「あ、ぶちょー!ありがとうございます」
跡部「またどっかの誰かみたいに、熱中症になられても困るしな」
めいこ「う」
気がつけば、芥川がスプリンクラーを持ちながら皆を追いかけ回している。
跡部「ジロー、壊すなよ」
芥川「えーっ?あとべ何ー?」
遠くにいる芥川にはよく聞こえなかったようで、こちらに近づいて来た。