第21章 【パラレル】豹のお兄さん(黒羽)
海の風、夏の匂いが鼻の奥で溜まってくるような季節。
もう直ぐ蝉がけたたましく鳴き始めるだろう。
遠くでは体育をする人達の反響する声と、授業中の先生の声がかすかに聞こえる。
めいこは痛む右手を押さえながら、校舎下でタクシーを待っていた。
めいこ「はぁーいったー」
先程、体育の跳び箱で派手に転んで、右手首を痛めてしまった。
落ちた瞬間に感じた激痛と吐き気、それから目眩。
こんなの初めてだった。
もしかしたら骨折かもしれないと内心思いながら、心配する友人達にどうってことはないと強がって、1人で出てきた。
先生に念の為に病院に行きなさいと言われたので、しぶしぶ早退してタクシーを待っている。
めいこ「おっそいなぁー」
痛みに耐えながら何かを待つのはとてもこたえる。
東京だったら直ぐに来るのに、と、またモヤモヤする。
もういっそ、歩いて行っちゃおうかな。
そう考えたときに、目の前に派手な山吹色をしたタクシーが止まった。
めいこ「は」
てっきり黒色の渋いタクシーが来ると思っていためいこは、目を見開いた。
この辺はこういう色の車なんだろうか。
っていうか、これ、あたしが乗るタクシーなんだろうか?
戸惑っていると、後ろのドアがバタンと自動で開いた。
そこには黒と赤で書かれた派手な鳥のマークがついている。
なんかどっかの特撮系秘密結社みたいだな。
「悪い悪い、待たせたな!和栗さん、でいいんだよな?」
和栗「は、い」
助手席の窓が下がって見えた顔は、太い眉毛が凛々しく斜め上を向き、黒で量の多いくせっ毛頭。
ニカっと笑うその人は、随分若くみえる。
めいこ「よろしくお願いします」
軽く会釈して、めいこは少し戸惑いながらも、車に乗り込んだ。
助手席にはタクシードライバーの名刺が刺さっている。
黒羽 春風(くろばね はるかぜ)
ふふっカラスの春風?面白い名前だなぁ。
あぁ、確かに、あの人の頭、カラスの巣っぽいような...。
黒羽「どこまで?」
めいこ「え?!あ、天根整形外科までお願いします」
黒羽「天根?あぁ!ダビデんとこか。りょーかい」
だ、ダビデ?!誰それ外国人?!初めて行くとこなのに不安になんじゃん!
黒羽「ってことはじょーちゃん、どっか痛めてんのか?」