第36章 子の心親知らず
「紗都せんせい、今日はありがとうございました、ボクに付き合ってくれて……」
サヘルくんは無垢な笑みを浮かべ、わたしにお礼を言う。
「いえ、そんな。わたしの提案ですし……その、少しは楽に、なりましたか?」
サヘルくんはさわやかに笑って頷く。
晴れ渡るような笑顔で、
「なんだか吹っ切れたっていうか、すっごく癒された気がします」
わたしを真っ直ぐに見た。
「紗都せんせいみたいな素敵な人がお母さんだったらどんなに良いか分かんないくらいです。でもやっぱりそれは理想で、現実とは違うってことも分かってます」
わたしが返事に迷っていると、サヘルくんは
「それに、やっぱりボクにとって紗都せんせいは理想そのもののご主人様なんですっ」
自信満々に言葉を重ねた。
「へ」
「しかも現実なんです、これ以上贅沢なことはないですよね……ボクは紗都せんせい専用の犬です、甘えるのも大好きだけど、キツく躾られるのがすっごく好きなんです……」
これは本当に甘やかすのは今日だけの予感がする。
「……そう、ですか」
嬉しそうに語るサヘルくんに薄ら寂しいような勿体ないような気持ちに襲われ、自然と苦笑いしていた。