第35章 商人の嘘は神もお許し
頭を掻き掻き歩いていると、
「……ん?」
何処からか男の嬌声が聞こえた気がした。
俺は立ち止まった。
放課後の喧騒にかき消されて当然のそれは、どうやら俺以外の耳には届いていないようだった。
空耳と流した方が自然な程小さかった。
しかし、女子校ではあまりにも異質な声に俺は強烈に興味をそそられていた。
保健室に向かう気はさらさら無い、ほとんど勘で声のした方へと歩みを変えた。
生徒指導室に辿り着いた俺はドアに手をかける。
「……閉まってる、よな」
ドアノブは当然のごとく動かないが、想定済みだ。
誰も使っていない時は無論鍵がかかっているし、いかがわしい事をしている時に明け放すことは無いだろう。
……そして、今回は後者だ、部屋からは女の声に混ざって先程の男の声がする。
何処の物好きが男を連れ込んだのか、それとも強引にしけこまれたのか。
下世話な勘ぐりをすると、口角が上がっていく。
把握しておいて損は無い。
俺は一旦生徒指導室を後にし、外の裏手に回り込んだ。
窓はカーテンで閉ざされていたが、僅かに隙間が出来ている。
音を立てないように細心の注意を払いながら、生徒指導室を覗き込んだ。
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