第28章 茶腹も一時
仕事終わり、保健室を通り過がると丸木戸先生と時雨が談笑しているのが目に入った。
何となく立ち止まって中を見れば、普段仏頂面の時雨の笑顔が見えた。
笑顔といっても爽やかさの欠片もない、悪巧みしてそうな笑みだけど……。
それでも、最近の時雨は表情豊かだ。
丸木戸先生が来るまで、あいつがおれ以外の人と個人的な会話をしている所なんて見たこと無かったんだけどな。
おれは丸木戸先生の方に目線をやる。
彼女は時雨の台詞に眉を寄せたり、むっと口をとがらせたり。
表情をころころと変えて、時雨と言葉を交わすその姿に妬けそうだ。
丸木戸先生が笑った。
おれは静かに嘆息する。
保健医と養護教諭。
二人の距離の近さ、共に過ごす時間の長さが羨ましい。
養護教諭の彼女に近付くには、ただの体育教師じゃあまりにも遠く感じる。