第22章 夢現
────────鎖羅……
男か女かも分からないその呼び声に、鎖羅は飛び起きた。それと同時にベッドのスプリングが軋む。先日洗濯したばかりの墨色のシーツはまだ自分の匂いに染まりきっておらず、爽やかな柔軟剤の香りを漂わせていた。
不思議な声だった。聞こえているのか聞こえていないのか、そもそも自分が知っている人なのか、あの呼び声は一体……
「鎖羅」
現実の呼び声に顔を向ければ、つい数ヶ月前に同棲したばかりの恋人───うちはオビトが肩に回したフェイスタオルを外しながら寝室に入ってくるところだった。若干眠気を纏った両の目線が鎖羅と重なり合う。そして、唇も。
「おはよう。今起きたのか?」
「おはようございます。ちょっと寝すぎちゃいましたね」
えへへ、と照れ笑いをしながら時計の針が回るのは正午12時。3日間の任務から報告を済ませ帰ってきたオビトは、鎖羅を起こすことなく風呂を済ませていたようだ。
昨日、食卓に広げたまんまの仕事の書類を片付けようと鎖羅はベッドから降りようとする。しかしオビトはそのまま目を閉じたかと思えば鎖羅の太ももに伏せるように抱きついた。
「ちょっとオビトさん、寝るなら髪乾かさないと」
「久しぶりなんだ、少しぐらい良いだろう?」
そう頭を鎖羅に擦り付けながら答える声は僅かに掠れて上ずっている。オビトは鎖羅が自分にいっそう甘いのを知っていた。それ故に、こうして年甲斐もなく甘えてくるのを鎖羅は無下にはできない。