第20章 二十夜
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「ッ……ァ、ああっ!!」
神威空間にそびえ立つ、綺麗な長方形の縁に鎖羅の足がぶらぶらと揺れる。首を掴む手をさらに強めれば、ドクドクと血が動脈を流れるのが感じ取れる。
ここに来てから、カカシはオビトの幻術にかけられて自我を失っている。足元を見下ろせば、まるで黒い物体が詰まってるように見えるほどの奈落が広がっていた。
「お遊びのせいとはいえ、お前をこんな所まで連れてきてしまったとは。俺も甘いな」
オビトは首を掴んだまま鎖羅を後ろへ放り投げる。鎖羅は喉が詰まり嫌な音を立てて咳込んだ。
直ぐに立ち上がろうとしない鎖羅にゆっくりと歩み寄り、肩を押して流れるように馬乗りになる。前髪と額の隙間に指を差し込み、髪を梳くフリをしてグッと掴んだ。
「何故俺を殺そうとしない?前から攻撃に躊躇いや手加減が見える。さっきだってすぐに反撃が出来たはずだ」
「……ッ、それは」
「俺を好いているからか?だから殺せないとでも言うつもりか?」
オビトの拳が右頬を打つ。身動きが取れないため、衝撃を逃がせずに鎖羅は大きく首を横に振った。
「愛は人を弱くするんだ、鎖羅。今のお前がまさにそうだ。だからお前には夢の世界に行く資格など無い。リン以上の価値など無いんだ。」
上に乗ったまま胸ぐらを掴み、地面に投げつける。それでも鎖羅は反撃しようとしなかった。
鎖羅の口の右端から鮮血が垂れる。そして、ゆっくりと唇が動いた。