第19章 十九朝
鎖羅はあの晩の痛みを思い出すように、反射的に左手を握る。
短く黒く、針のように硬い毛質の短髪。
バンドに目元が覆われていても、月明かりで際立った右半分のケロイドが印象的だった。
その後に見せた、身体を重ねた時の、
愛する者の素顔。
左目は瞑られていた。それでも彼に違いはない。
──────────
お互いが違う名を、否、同一人物の別称を口にして顔を見合わせた。
トビ、鎖羅の相方の名だ──
オビト、あの石碑に刻まれた『英雄』の名前──
「トビ……だと?じゃああの仮面の時からずっと、生きて……いたのか……」
「あ、あの人は確かにトビさんです、でも今先生はオビトって……オビトって先生の昔の班員で、亡くなった方ではなかったんですか?!」
「そう取り乱すなよ、鎖羅……」
確かに聞き覚えのある声で名前を呼ばれて、鎖羅は絶望に顔を歪める。
「生きていたなら、なぜ今まで……」
「オレが生きていたかどうかなんてのはどうでもいいことだ。しかし……そうだな 何故かと敢えて問うなら……
お前がリンを……見殺しにしたから、だろうな」
のはらリン あの墓石の名前だ。
カカシはその名を聞いて目を見張る。
その様子を見て、トビ……オビトは満足とも苛立ちともとれない含み笑いをする。
「早まるな……それに、そんな顔をするなカカシ」
妙に落ち着いた物言いにカカシは不気味な違和感を覚える。生前の、いや以前の彼ならばこんな雰囲気で話なんてしなかった。言葉の意味をそのまま取るならば、励ますような口振りで言ったであろう。