第13章 夕立
橙の面は顔半分から砕けて、深紅の瞳を覗かせている。
信じたくなかった。いや、まだ希望はある。
誰かに襲われた小南さんを助け、相手を殺したのかもしれない。そして今からアジトに帰るところで……きっとそうだ。だってトビさんが小南さんを殺すはずがない。暁に仇なすはずが無い。平和を否定するはずがない。
「なんだ……カブトさん、始末しなかったんスか……」
ズズ、と空間が歪む。
抱えられた小南さんがトビさんの右目に吸い込まれていった。
「う、そだ、トビさん……?違いますよね……?」
「何が?」
「だ、……って、小南さん……」
「僕が殺しましたよ」
ビクン、と身体が跳ねる。
いつもの快活な雰囲気とも、たまに垣間見せる、陰った雰囲気とも、全く違う。完全なる闇。発するオーラはまさしく百戦錬磨の忍。
敵わない……殺される……!
「……っい、今…アジトに、敵が来て、……皆、危ないんです、トビさ……ん」
「わぁー、それは大変ッスね!……でも残念、僕もう暁じゃないんで!」
「そ、そんな……違うって言ってください!トビさん!!」
目の前からトビの姿が消える。
一瞬だった。鎖羅の身体は後ろの配管へ吹き飛ばされる。咄嗟のことで衝撃から身を守ることも叶わず、ダイレクトに攻撃を受けた。
フッ、と影が落ちる。
見上げると、冷酷な目が私を見つめていた。
嫌だ、そんな目で見ないで。トビさん、いつもみたいに、優しい目で…!
「ごめんねセンパイ……センパイは連れてけないんです」
「……ど、どこに行っちゃうんですか、どこにも、いかない、って、言ったのに」
涙が溢れる。
そんな様子さえも、ただ蔑んで一瞥するだけで、以前のように寄り添ってさえもくれない。