第11章 十一朝
乱れた己の呼吸だけが聞こえる。
鎖羅はしっとりした布団の上でうつ伏せになり、顔だけ横を向かせていた。その視線はすぐ先に背中を向けて座っているトビだけを捉えている。
月の明かりが彼を照らしている。
普段はコートに隠れている分、じっとりと汗に濡れた背中をさらけ出している姿はとても煽情的に感じられた。
縋りついた黒髪が風に揺れる。
僅かに開かれた障子の隙間から差し込む月明かりは、トビの顔立ちをさぞかし綺麗に際立たせていることだろう。
掛布団を肩まで被り、腕に顔を埋めた。
蕩けた頭はまともに働いていない。
ただ今は、初めてトビが置いていった熱だけを感じていたかった。
畳の擦れる音が聞こえる。
「眠くないスか?」
「あ…。はい」
布団を捲って、肌をぴたりとくっつける。
背中越しに感じるトビの鼓動がまるで自分の心臓の鼓動とリンクしたように感じられるほど、近い。
「顔、見たいんスけど」
「え、ッ、や、ちょ」
肩を引かれ身体を倒される。
いつの間に仮面をつけたのか、目はバンドに隠されているが、口角を上げた口元が瞼にキスを落とした。
「それ、見えてるんですか?」
「見えてますよ、鎖羅センパイの全部」
鎖羅はトビにクスクスと笑われると、顔を赤らめて胸を隠すように布団に潜り込んだ。
心を許してくれているのは悪い気はしない。こうして初心な小娘を弄んでいるのも面白いものだ。