第10章 早暁
「……!」
執務室から二人を見送った綱手の手に握られているのは、茶が注がれた湯呑み。しかし、1本の茶柱が立っている。こういう良い知らせの時ほど悪い事が起こるのは嫌という程分かっていたが、この胸のざわめきは綱手にとって喜ばしい事だと信じて疑わなかった。
そして、その予感は的中する。
「……………どうして」
静かに簡易執務室の出入口に立っていたのは、身体中が包帯にまみれこそすれど、変わらず好戦的な笑顔を浮かべる男──自来也。
ペインの所へ行ったっきり綱手のところへ連絡は無く、木の葉を攻めてきたものだからもう望みはないと、そう思っていた。
「ちっとかっこ悪かったのォ…… 」
自来也はバツが悪そうな笑みをこぼしながら、白髪の頭をかいた。
「ああ……!まったくだよ……!」
「!………ハハ」
顔を伏せて胸に頭を預けた綱手を、自来也はゆっくりと抱き寄せた。
川の流れは絶えず流れ続け、淀みに溜まってはその泡沫はたちまち消え、また生まれ、また消える。同じものはひとつとしてなく、かつずっと留まることも無い。
戦乱の世を流れる泡沫達は、今まさにその身を昇華させようとしている。
ある者は平和を願った。
ある者は破滅を願った。
この物語は、そんな彼らのただ一時の栄枯衰勢に過ぎない。
そう、それはまるで邯鄲の夢の様に。