第1章 薄暮
泥と雨粒がぶつかり合う。
絶命した友を抱き抱える腕と手の中には、血と水っぽい泥が混ざりあって、じわじわと装束を汚していく。
後ろの崖から小南の慟哭が響く。
本来自分に向けられるはずだったクナイを、長門の腹から引き抜いた。
────何故。何故だ。
誰よりも心優しく、平和を願い、その為に自らの事を顧みず未来へ尽くしてきた長門が。
何故、死ななければならない。
クナイを握ると、手に刃が食い込み長門の血と弥彦の血は混ざり合う。パタリ、と血の雫が落ちた瞬間、雨音は突如止み、降り続けていた雨粒は地面に打ち付けられる前に停止した。
「計算ハズレ、ではあるが……。まあ、良い」
突如目の前に現れた橙の仮面の男。
以前から長門達に接触していた怪しげな男だ。
どこも汚れていない姿は、停止した時間内で異様に目立って見える。
座り込んで弥彦の抱える亡骸の目を開かせた。
「ッ触るな!」
「少し黙っていろ」
ギラリと赤く光った写輪眼を向けられると身体は硬直した。眼球すらも動かすことは叶わず、ただブチブチと視神経の切れる音を聞くことしか出来ない。
「ァ、ッ……ッ」
「コイツに眼を渡したのは、間違いだったかな?」
眼前には血に染まった手が向かってくる。
刹那、視界は割れた。ふたつ、よっつ、むっつ、やっつ、とお。
いくつにもいくつにも割れ、永遠に割れ続け、そして────光を失った。