第27章 〜番外編その4〜
『はい、もう少し様子見たら、帰って
明日に備えます。今日はありがとう
ございました。』と改めて礼を言う家康に
『ははっ、何言ってんの。当然の事だよ。
それが仕事なんだから。
それでもさ出産は、いつの時代も命がけで
幸せいっぱい、喜びいっぱいの
新しい命の誕生のはずが、一瞬にして
不幸のどん底って時もある。
そんな時は、ほんと医者なんて無力だなぁって
思うけどね。それでも、やっぱり助けに
なりたいじゃない?あんたもそうでしょ?』
と、ニッと笑う先輩女医に
『はい』と返す家康。
『じゃ、ちょっと奥さん診察してくるね。』
と白衣を翻し、病室に入っていく彼女を
医師として尊敬している家康。
彼女に桜奈の主治医をお願い
したのは、女性だったからと言う
だけではない。
産婦人科の研修時代にお世話になったが
産科医としての腕も評判も、勿論だが
何より医師としての矜恃と患者に寄り添う
姿勢に感銘を受けたからだった。
『出産は命がけ』が彼女の口癖であり
彼女にとっての真実。
何故なら、彼女自身が母と生まれくる
はずだった歳の離れた妹をその出産の時に
同時に失った。
新しい命の誕生への期待と喜びも
そして、それまでの当たり前だった幸せさえも
一瞬で、崩れ去ったあの日。
産科医になったのは、そんな経験を経てのこと。
自分が、味わった同じ悲しみも苦しみも
誰一人味わってなど欲しくない。
彼女からは、そんな信念とも呼べる強い
想いが滲み出ているように家康は感じた。
もしこの先、自分に子供ができたら
彼女に託そうと、最初から決めていたのだった。
診察を終えた、先輩女医は
家康に桜奈の状態を説明した。
『子宮の戻りも、問題ないし
出血も落ちついてる。
無理しなければ、問題なく経過すると
思うよ。ただ、入院中はなるべく安静に
してもらって、経過見るからね。』
『分かりました。ありがとうございます。
宜しくお願いします』と頭を下げる家康。
『うん、良かった。私もホッとしたよ。
じゃ、なんかあったら、すぐ声かけて』と
言って病室を後にした。