第1章 〜幸せだった?〜
信長に抱っこされながら
信康の亡き骸を目にした凛桜は
『父上、信康様は、まだお目覚めに
ならぬのですか?早く、信康様と
共に遊びとうございましたのに。
とても、お疲れなのでしょうか?』と
事態を飲み込めぬまま、父に尋ねる凛桜。
『そうじゃな、今暫く、ゆるりと
眠らせてやろうの。信康は凄く
頑張ったからの』と娘の頭を撫でた。
そのやりとりを聞いて栞は、桜奈を
無言のまま、きついほど抱きしめた。
桜奈は、やっと声を上げて泣いた。
『栞さん、信康を・・守って・やれなかった。
ごめんなさい信康。ごめんなさい。母を
許して・・・』と泣き崩れたまま
ずっと張り詰めていた緊張の糸が
プツリと切れ、そのまま意識を失った。
『桜奈さん!!』
痛ましい親友の姿に、どれほどの苦しみと
悲しみの中に身を置いているのかと思うと
栞は胸が張り裂けそうだった。
桜奈を、抱きかかえた家康は
『栞、ありがとうな。
桜奈は、身体が弱ってるのに
信康の看病の間も満足に寝てくれなくさ。
亡くなった後も、信康の側から片時も
離れなくて、食事もとらず、眠らず
涙ひとつ零せずだったから
このまま、壊れてしまうんじゃ
ないかって不安だった。
でも栞に会えて、抱きしめてもらって
やっと泣いてくれた。
何より、気を失ってでも、やっと休んで
くれると思うと、ほっとしてる』と
家康は涙を堪え、でも少し安堵した
ように栞に礼を言った。
その言葉に栞は、二人の姿を見つめ
咽び泣いた。涙をただただ流し
握った拳と身体が小刻みに震えていた。
(苦労して、やっと、やっと結ばれて
これからいっぱい幸せになるはずだったのに・・
誰よりも幸せになって欲しい二人なのに。
なんで・・・どうしてこんなにも悲しい目に
遭わなきゃならないの?なんで、酷すぎるよ)
理不尽な運命に栞は言葉にならない
怒りを覚えた。
そんな栞を労わるように信長は
栞の肩をそっと抱き寄せた。