第16章 〜慟哭〜
娘だけでなく、栞にまでそんな悪態をつかれ
鉄扇をパシッと閉じ、ググっと握り締める信長。
(全く、人の気も知らんで、勝手を申しおって)
『ふんっ、どこの実家に帰ると言うのだ
帰るところなど、あるわけ無かろう』
とたかをくくってっていた信長だった。
しかし、甘かった。
栞は、佐助に文を出し、ワームホールが
開く日時と場所を確認したのだった。
栞は本気だった。
栞は、桜奈との約束を果たしたかった。
両家が婚姻で親戚関係になって平和な
世に繋がって行くように、お互いの子供が
生まれた時、そう約束していた。
しかし、信康が先に亡くなり、失意の中
桜奈は、身を切る思いで
徳川家の存続の為に動いた。
全ては、徳川家を守る為。
ひいては、信長が目指した泰平の世を
に繋がって行くようにとの願いの為。
桜奈を想い続ける栞にとって
桜奈との約束は、家康同様
絶対譲れない約束だった。
しかも、凛桜と秀忠も幼い頃からの
許嫁として、幼馴染として、お互いに
惹かれ合う姿は、見ていてとても
微笑ましく、幸せそうだった。
好きな人と一緒にさせてやりたい。
凛桜に対する親心も、桜奈との約束も
信長の気まぐれとも思える思いつきによって
阻まれたと思うと、無性に腹が立った。
信長も、信玄も、謙信も、佐助から
歴史のあらましについては、大方聞いていた。
自分達が生きてることで、歴史に歪みを
生じさせることは、後々の世に
どんな影響をもたらすか分からない。
それぞれが、天下を狙ったのは
戦さの世に終止符を打ちたかったからだ。
形は違えど、目指した場所は皆同じだった。
佐助から、歴史の指南を受けながら
佐助が教わったてきた史実をなぞるように
書物として、書き残させ、自分達は
隠居生活を送りながら、歴史の修正に
尽力していた。