第1章 〜幸せだった?〜
ーー時は戦後時代ーー
生まれる前から夫婦になる事が
決まっていた徳川家康とその許嫁の桜奈。
残酷な時代のうねりに翻弄されながら
幾多の試練を乗り越えて
運命の赤い糸に導かれ
やっとの思いで結ばれた二人。
この先には、幸せしかない。
そう信じて疑わなかった。
それほどに、二人のお互いを想う気持ちは
強かった。
共に過ごせる事が、どれほど幸せな
事かを身をもって知っていた家康と桜奈。
幸せいっぱいの中、授かった二人の
初めての子供。
同じ時期に、信長と栞も子供を授かった。
もし、生まれて来る子がそれぞれ
男の子、女の子であったなら
許嫁とし、将来は一緒になってもらい
両家の悲願を、天下布武への
道を引き継いでもらおうと
夢を語り合い二人組の夫婦は
笑いあった。
幸せだった・・・
怖いくらい、生きてきた中で一番幸せだった。
家康にとり、桜奈と生まれて来る
子供と生きて行けるこの先には
希望が溢れていた。
過去の苦しかった出来事など
この時の幸せを味わう為だったと
思えるほどに。
難産の末に、やっと胸に抱いた我が子
名前は、桜奈にとっては父にも等しい
信長の一字と愛する夫の一字を合わせ
『信康』と名付けた。
難産だった挙句、産後の肥立ちが
悪かった桜奈は、すっかり病弱な
身体になってしまっていた。
信長と栞の間には、女の子が誕生し
名前は栞のたっての希望で桜奈の
ように強くて優しい女性に育って
欲しいとの願いで『凛桜』と名付けた。
誰の目も奪う桜の美しさ。
散り際の美しさと潔さ。
凛と咲く桜のような桜奈。
栞は、桜奈の事をそんなふうに
思ってみつめてきた。