第1章 〜幸せだった?〜
栞と家康と、懐かしいくも楽しい
ひと時を過ごした三日後
その日は、珍しく体調がよく
顔色も良かった桜奈。
華奢な身体は、以前よりも更に痩せ細り
家康に後ろから抱きしめられるように
寄りかかり穏やかな笑みを浮かべながら
『家康様、桜奈は本当に果報者でした。
家康様のお側にいられて、本当に幸せでした。
お世継ぎに立派に育って頂いて
お家を守る戦に勝利して下さいませね。』
『うん、分かってる』
『来世は、できるなら私は、栞さんの生まれた
戦のない平和の世に生まれ変わりたいですわ。
お約束したように何度でも桜奈は家康様に
恋してしまうと思いますが、しつこいだなんて
嫌わないで下さいませね』
と恥ずかしそうに微笑む桜奈。
『何言ってんの、一目惚れは、俺が先だよ』
『そうでございましたね。』
クスクスと桜奈は笑った。
『家康様?頑固者で泣き虫の桜奈は
家康様の支えになれたのでしょうか?』
『俺は、桜奈のお陰で
幸せが何かを知ることができたよ。
桜奈に支えてもらってばかりだよ』
そう言って、桜奈の頭に口付けし
頬をつけた家康は、涙を堪えた。
『良かった、それなら、父に叱られずに
済みますね。』と力なく微笑む桜奈。
『ねぇ、桜奈、どこにも行かないで
俺の側に居てよ。俺が必要だって言う限り
側に居てくれるんでしょ、約束したでしょ?』
家康の目から涙が溢れる。
『はい、ずっとお側におりますよ。
目には見えなくても、声は聞こえなくとも
こうして、触れ合えなくても
桜奈の心は、ずっとずっと家康様の
お側におります。
だから、どうか家康様の進むべき道を信じる道を
真っ直ぐお進み下さい。桜奈はずっと
信康と共に、お側で見守っていますから』