第1章 〜幸せだった?〜
もう、桜奈に残された時間は
少ないことは家康はもちろん
桜奈自身も気づいていた。
それを知った、安土城の皆は
入れ替わり立ち代わり桜奈を
見舞った。
桜奈は、一人一人に感謝の意を
伝えながら、家康のことを家康には
内緒でお願いしていた。
信康が亡くなったあとから栞は
頻繁に顔だすようになっていた。
『また、来たの?』と素っ気無く
言う家康だが、栞には心から感謝していた。
『そりゃ、来るわよ!家康なんかより
私の方が、ずっと桜奈さん好きだもの!』
『それ、どう言う意味?』と、眉をひそめる
家康。
『言葉通りの意味よ!家康はずっと桜奈さん
独り占めだったんだし、ちょっとくらい私と
二人きりにしてくれたって、いいじゃないよ!
家康のケチ!いっつも、邪魔しにきてー』
『いや、だって俺の、奥さんだし!
何訳わかんないこと言ってんの?
信長様と、凛桜がまってんでしょ
早く帰れば!』
『嫌ですー、家康こそ
ちゃっちゃと仕事した方が
いいんじゃない?』と睨み合う二人。
そんな、二人のやりとりを
また、声に出して笑う桜奈。
その声に、張りはないが
懐かしい思い出が次々と蘇る。
『私も栞さん大好きです!もしかして
家康様より好きかも』と家康を揶揄う桜奈。
『酷いな桜奈まで。
そんなこと言って、桜奈あとで
お仕置きだからね!』と不機嫌になる家康。
『うふふ冗談ですよ。』とにっこり桜奈。
(///やっぱり、可愛いなぁ///)
そこだけは気の合う家康と栞。
かつて家康の御殿で過ごした
日々を思い出し、懐かしみながら
三人は笑い合った。
栞の帰り際に桜奈は
『栞さん、いつも本当にありがとう
栞さんに出会えて、私、本当に幸せ』
と優しく微笑んだ
『うん。私もよ。またくるからね!
早く元気になってね!またお茶しながら
いっぱいお喋りしましょう!』
そう言って、微笑んだ。
それが、栞と会った最後の日だった。