第90章 Master
「仕事、頼んでもいいか?
このまま抱きしめてやっててもいいが、俺も男だと言うことを忘れてもらっちゃ困るんだが…」
慌てて身体を離して、なんでもやりますと意気込んだ
リビングで赤井さんに与えられた書類の類を片付けて、席を外した赤井さんを探した
席を外した時、なんて言ってたっけ?
集中してて、話が入ってこなかった…
書斎をノックするとご機嫌な沖矢さんに出迎えられる
「終わりましたよ」
「さすが、仕事が早いですね」
「どうぞ」と招き入れられた書斎はやっぱり何度見ても圧巻だった
有希子さんたちと仲良くさせてもらっている時、よく篭って推理小説を読み漁っていたな
「そうだ!」
「どうかしましたか?」
昔なくしたと思っていたブックマークもしかしたらここの本に挟んであるかも…
ヒロくんが誕生日プレゼントにくれたもの
大事にしていたはずなのに、いつの間にかなくなってた
当時はショックでいろんな所探し回った
ここにある気がする
当時読んでいた本を思い出そうと思考を巡らせる
「お前が探してるのはこれか?」
赤井さんの声で言われて振り返ってみると探していたものを持っている
「それ!」
「クリスティーンの本の間にあったぞ
本自体は最近読んだ形跡がなかったからな
抜いて保管してた」
「そんなに嬉しそうな顔して、余程大切なものだったのか
もうなくすなよ」
「はい」
アンティークで羽の形をしたブックマーク
かわいくてオシャレですごく好きだった
「ヒロくんが昔、誕生日にくれたんです
見つかってよかった…」
「赤井さんはなんでそんなに機嫌がいいんですか?」
「バレてたのか…」
書斎の机の上にあるPCの画面を指さされ、見てみる
「うわぁーーー、すごい!
羽田名人7冠?!よかったですね、おめでとうございます!」
今日、何度も体感している赤井さんの体温に包まれた
「え?ちょっと…赤井さん?」
「諸伏のプレゼントを見つけて喜んでいるお前も…秀吉の事を自分のことの様に喜んでいるお前も…
なんだかかわいいって思ってな
それ以上、かわいい姿を俺に見せるな
抑えられなくなる」
抱きしめられた腕が力強くて身をよじっても抜け出せない
「赤井さん、離して、ください」
「悪い…」
離して貰って帰りますと告げて工藤邸を後にした