第74章 Everyday
スーパーで買い物をした後、通り雨に遭遇して入口で佇んでいると、長身の亜麻色の髪をしたメガネをかけた男性に声をかけられた
「お困りですか?」
「え、まぁ…傘もってなくてどうしたものかと…」
「良かったらこれ、使いますか?」
傘を差し出してくれた
「でも、それじゃあなたが…」
「僕は車で来てきるので駐車場まで走ればすみますから
送って差し上げたいのですが、初対面の男の車に乗るほど、あなたは馬鹿ではないでしょう?」
初対面?ほんとに?
どこかで会ったことある気がする…
「どうぞ、使ってください」
「ありがとう、ございます…」
雨の中、足早に駐車場に走っていく彼を見送って借りた傘をさして部屋に帰れば
諸伏さんがおかえりとエントランスで出迎えてくれた
「どうしてるかなって気になって…様子見に来た」
「変わりないですよ、思い出すことも何もないですし…上がっていきますか?少し聞きたいことありますし」
「お邪魔するよ」
コーヒーを入れて諸伏さんの隣に座る
「長身で…」
そう切り出してさっき会った男の人の事を聞いた
「諸伏さん、知ってますか?私会ったことあるような気がして…」
んー、と考えている
話すのを迷っている感じだった
やっぱりさっきの人、私知ってるんだ…
あの人も記憶をなくしているのを知っていて気を効かせてくれたんだと思った
「私、また忘れてたんだ…」
気づいたら涙が溢れてて、諸伏さんの腕にしがみついていた
「…」
諸伏さんの手が私の背中をさする
私、この手を知ってる…
いつも優しく私を守ってくれてた…
そんな気がした
「私が忘れている人達は、大切な存在ってのは、分かるんです
でも、思い出せない…みんなの思い出とリンクしないのが辛くて…思い出したいけど、怖いんです…」
縋るような気持ちで、しゃくりあげながら今の気持ちを諸伏さんに伝えた
諸伏さんは私が泣き止むまで、ずっと手を握ってくれていた
「落ち着いた?」
「はい…突然ごめんなさい…」