第60章 ex
追いつかないけど、距離も離れない
陣平さんの背中ばかりを見ていたせいで角を曲がってきたサラリーマンとぶつかってしまった
その反動で転んでカバンの中身を全部ぶちまけた
ごめんね大丈夫?と謝ってくれるサラリーマン達に大丈夫です、こちらこそすみませんと頭を下げた
拾ってくれようとしたのを断って1つ1つ拾い上げる
財布に手を伸ばそうとした時、黒のスーツを来た手が見えた
顔を上げると陣平さんで…
戻って来てくれて嬉しかった?安心した?
なんの感情かは分からなかったけど、陣平さんの名前を情けない声で呼んだ
「何やってんだよ…」
立てるか?と手を差し伸べてくれた
「なんでお前が泣きそうになってんだよ…」
そんなのわかんない…
置いていかないで…その感情だけに支配されていた
陣平さんはいつも隣を歩いてくれて、こんなに追いかけたのは初めてで…
不安だったのかな…
「無視して、悪かった」
引き上げてくれた腕にしがみついた
「置いていかれる事が嫌いなお前にこんなことして…ごめんな…」
「沖矢さんとは本当に博士の家のお隣さんてだけだから」
嘘をついてしまった…ごめんなさい…
「わかった…」
信じるって言われて胸が張り裂けそうに痛い
帰るぞと手を引いてくれて、陣平さんの隣を歩くことが出来た事に安心した
部屋の前まで送ってもらっておやすみと声をかけられる
「おやすみなさい」
陣平さんが部屋に入ったのを見届けてから私も扉を閉めた