第36章 Training
「随分と刺激的な格好だな、僕の事、誘ってる?」
「え、な……」
人間驚くと本当に声が出ないものだ…
口元に傷を作った、スーツ姿の零くんがそこにはいた
寝室に逃げ込んで慌てて服を着た
驚いたことでバクバクいっている心臓を落ち着かせて寝室から顔を出すとスーツを脱いで腕の傷を自分で手当している零くん
「もう、驚かせないでよ…どうしたのこれ…」
「公安の仕事してたんだが…ちょっとしくじった」
「貸して、やってあげる」
出血はもう止まってるから大丈夫かな…
零くんはいつも傷を作っている
同期の3人が見たら、「ほら、言わんこっちゃない」と怒られそうだなと手当てをしながら思う
「無茶しないでよ?」
「それより、諸星大とはどうなった?」
「1人で飲むなら、あのバーに来いって」
「順調そうだな、よくやったな」
頬を撫でられて、「こんな事させてごめんな」と言う
いいの、ヒロくんを生かすためだから…
でも、この数ヶ月ハニトラを繰り返してきた事によってどれが自分なのか、少しわからなくなってきた
相手の好みに合わせて演じる
やっぱり私にはハニトラは向いてない
「なんだ?その顔…」
ふにっと今度は頬を摘まれた
「いひゃい…」
「はだから何も変わってない」
零くんは、すぐに私の心の中を読み取る
「ヒロに会うか?最近会ってないって拗ねてるぞ
俺の相棒なのに、ゼロばっかりだーってね」
「今はいい…
諸星大の事どうにかしないと…」
「ヒロ、ますます拗ねるな…」
会いたいけど、会いたくない
今会えばきっと甘えてしまうから
「ヒロくんは元気?」
「元気だよ、心配ない…元気がないのはの方だ」
「私?元気だよ?」
「僕の前で強がるなよ」
強がらなきゃいけない状況なのだから、強がるしか他ない
まるで子供をあやす様に抱きしめられた
零くんもまた時々私を子供のように扱う
いつまでたっても、零くんにとったら私は子供なんだな
そう思うと何だか気が抜けてしまって、子供のように甘えた
零くんの体温が心地いい
だんだん眠たくなってきてウトウトしてしまう
「眠ったのか…ったく、どうすんだよ…」
零くんの言葉が眠り掛けの耳に届いた