第35章 Ray
隣に座っていた人の気配が消えた
タバコを吸いに席を外したみたい
別に気にしなくてもいいのに…
陣平さんも研二さんも私の前では吸わなかったなぁと2人を思い出した
「お嬢さん1人?あっちで俺たちと一緒に飲もうよ」と他の客に誘われた
「1人で飲みたい気分なので遠慮しておきます」
そう断ると馴れ馴れしく肩を抱こうとしてくる
「悪いがそこは俺の席だ」
背中に冷や汗が伝う気がした
怖いと思った時のヒロくんと同じ目つき…
声を掛けてきた客は酷く怯えながら元いた席に戻っていく
ニット帽の男はドカっと座って静かにお酒を飲み始める
あれ?もしかして…隣に移動してきたのって…
「あの…私、お礼言った方がいいですか?
いろんな意味で…」
「別にかまわん…」
ぶっきらぼうに言われてフフっと笑いが込み上げてくる
この人、顔は怖いけど悪い人じゃないって
そう思った
特に会話することもなくチビチビとカクテルを飲んでいたら、携帯に着信が入る
発信者を見ると零くんだった
出たくない…
無視してしまおうか…そう考えているうちに携帯は切れた
「出なくてよかったのか?」
「仕事の電話なので、ちょっとここでは…」
止んだと思っていたコール音はまた鳴り響いて思わずサイレントモードに切り替える
「うるさい上司で困っちゃいます…
どうせ呼び出しだから、私帰りますね」
マスターにお会計をお願いすると、首を横に振られた
「まさか、本当に?」
「なんの事だ?」
「奢られる理由ありますか?」
「知らん」
3度目の着信を携帯は知らせてくる
「もう!今度もし会ったらお返ししますからね」
「だから、知らんと言っているだろう?」
「ごちそうさまでした」
慌ててバーを出て零くんに折り返すとこっぴどく怒られた
こっちにも都合があるのに…
零くんがいるならヒロくんもいるかな…あんまり会いたくないな…
そう思いながら待ち合わせ場所に向かった
「遅い…」
「すみません」
「ん?、酒を飲んでいるのか?」
「1杯だけ、私にも飲みたい時はあるもん」
ヒロくんはいなくて零くんだけだった
「ヒロには内緒でに頼みたいことがある」
ヒロくんに内緒か
嫌な予感しかない…
「会って欲しい男がいる」