第35章 Ray
また陣平さんとしてしまってごめんなと謝らせてしまった
ハッキリしない私が悪いのに……
1度ヒロくんとも陣平さんとも離れた方がいいのかな…
モヤモヤした気持ちをどうにかしたくて、1人でお酒を呑みにきた
目に飛び込んできたバーに引き寄せられるように入る
初めて1人で飲みに来た
ガランとしていて少し緊張する
奥に1人だけお客さんがいた
「なにになさいますか?」
マスターが注文を聞いてくれる
陣平さんに教えてもらったカクテルを頼もうかと思ったけど、何となく躊躇した
他にお酒の名前をほとんど知らない…
いつか零くんが言っていたバーボンが頭に浮かんだ
「バーボンを…お願いします」
「ふっ…」
鼻で笑われた気がした
カウンターの一番端に座る長髪でニット帽を被った男が笑ったみたい
「酒の飲み方を知らんらしいな…
マスター、彼女にはミントジュレップを作ってやってくれ、俺の奢りだ」
「バカにしないでください」
「そんなことはないさ
バーボンは強い酒だ、ミントジュレップにした方が飲みやすい、それだけだ」
「奢られるつもりはないです」
ククッと喉を鳴らして笑うニット帽の男
「強気な女は嫌いではない」
別に貴方に好かれようが嫌われようがどっちでもいいと密かに思った
どうぞとミントジュレップというらしいお酒が目の前に置かれた
1口飲んでみると、今まで飲んだどのお酒よりも美味しかった
「美味いだろう」
ニット帽の男は美味しいって顔をしている私を見て満足そうに笑った
少しの甘みとミントの爽やかさとウイスキーの香りが混ざってとても好きな味だ
見ず知らずの人に好みのお酒を当てられたのがなんだか悔しい
最初入店した時はニット帽の男と私2人だけだったのに、だんだんと賑わってくる
来なくていいのに、ニット帽の男は私の隣に座った
マスターに聞いたらミントを潰して砂糖とソーダをバーテンで割ったものがミントジュレップと言うカクテルらしい
カウンターに突っ伏して顔を壁側に向けてシュワシュワ弾ける炭酸の泡をじーっと見つめていた