第1章 天女達の街
「はい。」
「ほら、そこの!琴を用意せんか。」
そうやって美幸の前に琴が準備されている間、喜瀬川は黙ってその様子を見ていた。
「さあ、美幸。花魁の御前だ。失敗すんでねえよ。」
美幸は息を吐き、集中した。これ程美しく、妖艶で、どこか恐ろしい人の前で弾くのはすごく緊張する。美幸は今このタイミングが、己の人生に大きく関わっている感じがした。
〜♪
美幸は素早く、慣れた手つきで弦を弾いていく。その音色は、そこにいた全ての人を魅了した。
喜瀬川は目を大きく見開いて美幸を見ていた。
(わっちは6つでここに来た…それでも9つの頃こんなに琴が上手かったでありんしょうか…?)
この子は才を持って生まれたのだ。この子の成長を近くで見ていたい。喜瀬川はそう強く思った。
「…わかりんした。こなたの子をわっちの禿にしんしょう。」
「…お、おお。良かったなぁ。美幸。」
女将さんは、9つの子供がしたと思えぬ演奏にまだ戸惑っているようだ。
「…かむろとはなんですか?」
「この喜瀬川の見習いとしてお前は働くんだよ。いずれこの喜瀬川のようになるためにな。」