第10章 ただの幼なじみ
『1年の全中の決勝で負けたときを思い出した』
その一言でだいたいのことは予想がついた。高尾の言っていた顔色の悪い理由も容易に想像ができた。
掴んだままだった花子の腕を引っ張り、その体を優しく抱き寄せた。
「嫌なら、辞める。」
『・・・・・。』
しかし花子は何も言わなかった。
これを肯定と取ったオレは、びしょびしょに濡れた花子の頭を優しく撫でた。
少しして、その体に力が入っていることに気付いた。
「怖い・・・か?」
できる限り優しく話しかけるが、花子は首を横に振るだけだった。
どれくらいそうしていただろうか。
本音を言えばもっとこのままこうしていたかったが、誰かに見られるかもしれないし、服は気持ち悪いくらいに濡れていて、本当に風邪をひきかねない。
オレは渋々花子から離れた。
自分から抱きしめたくせに、とても恥ずかしい。まともに顔なんか見れたものじゃない。
しかし彼女はオレを異性として意識していないのか、いつものようにニコニコしている。
『真ちゃん励まそうと思ったのに、私が励まされちゃったね』
なんて、オレだけが意識しているみたいで悔しいし、イライラもする。
「ロッカー戻るぞ。」
それだけ言うのが精一杯で、この気持ちを悟られぬよう花子の腕を引っ張って歩いた。