第48章 カッコわりぃとこ見せてんじゃねぇぞ
「勝たせて貰うぞ、赤司。・・・花子は渡さない。」
「それは無理だ真太郎。一度でも“僕”に投了させたことがあったかい?」
「将棋とバスケな違うのだよ。」
「同じさ。“僕”が今まで間違ったことを言ったことは一度もない。“すべてに勝つ僕はすべて正しい”。花子も“僕”が大事にするさ。」
赤司は淡々と話をしていて、声を荒らげるわけでもなく、汚い言葉だってひとつも使っていないのに恐怖を感じるのはどうしてだろうか。決してビビってなどはいないが、思わず背筋がピンと伸びる。
花子を賭けて勝負だなんて馬鹿げている。
頭では分かっちゃいるが、今はもう後戻りできやしないし、試合も始まり花子のことは関係なく、ただただ赤司に、洛山に勝ちたい一心で、すぐに3Pを打った。
「すべて正しいだと?笑わせるなよ、赤司。勝ったことしかないようなヤツが知った口を聞くなよっ!」
もちろん放たれたボールは予定通りの弧を描いて、ゴールへと吸い込まれて行った。洛山相手に選手の動きを見ている場合ではない。とにかくディフェンスで封じられる前に打てるタイミングがあればすぐに打ってやるくらいの攻めの気持ちで挑む。
「来い、赤司。約束通り教えてやるよ。・・・敗北を。」
あの日の昼休みの会話を赤司だって忘れてやしないだろう。
知りたかったんだろう?負けたときのあの感情を・・・。だったらオレが教えてやろう。涼しい顔をしていられるのも今のうちだぞ、そう思いながら1Qを戦うが、何かがおかしい。
・・・ナメられている。
実際のところは分からないが、直感的にそう感じたのだ。赤司が、と言うよりかは、チームがまだ全員本気を出していない。これは出せていないわけじゃなく、意図的に出していないのだ。
そうして1Qは16-16の引き分けで幕を閉じた。
「ナメるなよ、赤司。」
監督は決して赤司は手を抜いてはいない、将棋のように試合を運んでいるだけと言っていたが、それ自体に腹が立った。
「第1Q丸々様子見とは、ずいぶんのんびりしているな。」
「ナメてなどいないよ、真太郎。“僕”だって喉が手が出るほど花子が欲しいからね。」
そう言った赤司の視線の先には花子がいて、その視界を遮るように2人の間に入る。