第1章 責任感じてるんスよ
「山田は見たことあんの?その黒子とかってヤツが試合してるとこ。」
呑気に荷台でアイスを食べる山田に問いかける。ちなみに真ちゃんはいつも通り、おしるこを飲んでいた。
『あーうん、何回かだけど、あるよ。』
「どんなヤツなんだ?そいつは。」
山田はガリガリくんをかじりながら、“んーそうだねー”と考える素振りを見せたが答えはやはり真ちゃんと同じようなものだった。
『・・・影薄くて少し運動神経が悪い!』
「オマエそれほぼ悪口だぞっ!」
山田にまともな回答を求め質問したオレが間違いだったと気付き大きなため息が漏れる。折角のオフ日だと言うのにオレは一体全体何をしているのだろうか。
真ちゃんはこれも自主練だというが、もっと効率のいい自主練の仕方だって山ほどある。
もしかして今後もこうやって真ちゃんの下僕のように扱われ、高校での部活動生活が無駄に過ぎていってしまうのではないかという一抹の不安が頭を過ぎった。
しかしそんなことを考えれば考えるほど恐ろしくて堪らなくなったオレは、首を左右に大きく振り思考を停止させた。
「てか、そいつほんとに強いの?」
「それより速く!試合が終わってしまう。」
「オマエが占いなんか見てたからだろうがーっ!」
叫びにも似たオレの声が閑静な住宅街に響き渡る。途中すれ違う人たちみんなが二度見して、終いには白い目で見られる始末。
あーあーあー、バカらしい。
そう思ってはいるが、実際問題その黒子というヤツに少しばかり興味があった。
あれは思い出したくなくなるほどにこてんぱんにやられた試合だったが、以前オレは帝光中と戦ったことが一度だけあった。そして苦痛に耐えながらどんなに記憶を遡っても、やはりそこには黒子という選手など存在しなかった。
一体全体どんな選手なのか。真ちゃんほどの技術を持っている人が一目置く選手となれば、どんなに“影が薄くて運動神経が少し悪い”としても興味が湧かないはずがないのだ。
そしてオレはそれだけを楽しみに、チャリアカーを漕ぎ続けた。