第44章 忘れさせてやる
「ったく、心配なら自分で探しに行けよな。」
どこで油を売っているのか、なかなか帰って来ない山田を探してこいと命じたのは、他でもない真ちゃんだ。
もちろんこんなことを面と向かって言える訳もなく、ブツブツと文句を呟いたのは2階の応援席から少し離れてからだった。
それにしても毎度お決まりなような気もするが、山田が出かけてすんなり帰ってきた試しが今までにあっただろうか?いや、一度もなかっただろう。
買い出しに出かけたと思ったら赤司と一緒に帰ってきたという話を真ちゃんから聞かされたのだって、つい2.3日前の話だ。
「アイツをフラフラ買い物に行かせるべきじゃねぇな。」
なんてまたもや大きな独り言を呟きながら、オレは外にある自動販売機を目指していた。需要の少ないおしるこは、この体育館でも外の自動販売機でしか販売されていないのだ。
外に繋がる扉に手をかけ一歩外に踏み込めば、あまりの寒さに身震いをひとつした。
そう言えば山田は制服の上に何か羽織っていただろうか。と、その姿を思い出しながら足を進めたせいか、足元に転がる何かに気付いたのはカランと軽く蹴飛ばしてからだった。
「んだよ、危ねぇな・・・・・って、おしるこ?」
しゃがみこみよく見てみれば、それはまだ未開封のおしるこで。真ちゃん以外にも飲む人がいるんだなと思ったと同時に、そんなわけないだろうと自分に自分でツッコミを入れる。
・・・山田が落としたのか?
だとしたらなぜ落としたままに・・・?
・・・どこか具合いでも悪くなったのだろうか?
はたまた・・・・・、
そんな嫌な予感と共に警鐘が鳴り響き、足早に自動販売機の方へと向かう。そしてなぜだかこういった類いの予感と言うのは、ハズレないのだ。
目の前に広がる光景に思わず息を飲む。
ジャージ姿のオトコが嫌がる山田を壁に押し付けながら、スカートの中に手を這わしているところだったのだ。
「おいっ!!てめぇ、何してやがるっ!!」
全速力で走って駆け寄り二人を引離せば、山田は膝から崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。肩で息をするその身体を抱きとめ、声をかけてみるも返答はなく、その目からは涙が溢れていた。