第39章 ・・・殺す
「どうしよう・・・、」
時計を確認すると、既に授業が終わってから30分は経っていた。
・・・今頃山田さん、・・あぁダメだ。考えるな。
首を左右に振って考えるのを辞めるようにするのもかれこれこれで数十回。それでも昨日の松野先輩の話が頭から離れない。
赤司くんに言おう。
昨日から何度も思ったのに、依然としてそれをしようとしなかった。
きっと赤司くんにそれを言ったら、彼は血相を変えて体育館倉庫へと向かうだろう。それが意味すること。それはいつだって赤司くんは山田さんが大切で、大好きだということ。
とどのつまり、私はその至極当然な事実から目を背けたくて仕方なくて、言えぬまま今に至るのだ。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
ボーっとしていたところに、愛らしい顔のさつきに下から覗きこまれる。この時自分が初めて下を向いていたことに気がついた。
「ごめん、ちょっと考え事してて、」
「あんまり具合い悪いようだったら言ってね。」
なんて優しく笑いかけてくれるさつきをも私は裏切ってしまっているのだろう。一度引き込まれた負の連鎖から、なかなか抜け出すことは出来ず少しの吐き気が私を支配した。
・・・山田さんが悪い。仕方ない。
そう言い聞かせることで、“言わない”を選んだ自分を肯定した。バスケが上手くてモテてしまう山田さんが悪い、私は何も悪くない、知らない。
・・・本当に山田さんが悪いの?山田さんを妬んでいるだけじゃないの?
自分に問いかける。本当にこのままでいいのかと。今し方“言わない”を選んだはずなのに、急に“言う”という選択肢が浮上する。
考えて考えて、バカみたいに考えて・・・・・、
その刹那だった。
「危ないっ!!」
大好きな匂いがふわっと漂い、なにが起きたか理解するのに少し時間がかかったが、私は赤司くんの腕の中にいた。
「あ、・・・あの、」
「ボールが当たりそうだった、大丈夫か?」
「宮古さんごめん、怪我してないっスか?」
「だ、大丈夫・・・です。」
足元に転がっていたボールを黄瀬くんに渡す。赤司くんは私が怪我をしていないことを確認すると、一つ頭を撫でて良かったと笑った。