第6章 秀徳に行かないか
全中が終わり、夏休みも残すところあと何日かになったその日は、とても暑い日だった。いつものようにオレの部屋で(しかもベットに寝転びながら)斉木楠雄の幸運を読む花子に声をかけた。
「秀徳に行くことになったのだよ。」
スポーツ推薦で、そう付け足すと花子はおめでとうと少し寂しそうに微笑んだ。
『やっぱりみんなバラバラなんだね。赤司は洛山に行くって言ってたし。』
「あぁ。」
『みんな敵になるんだね。』
「・・・・・オマエは誰が日本一になれると思う?」
本当はこんなことが聞きたかった訳ではない。でもいざ本人を目の前にすると、一緒に秀徳へ行かないか、のその一言が一向に口から出てこないのだ。
『分かんないよ。でも1人選ぶなら赤司の洛山かな。』
自分で聞いたくせに、一番聞きたくない名前にオレは苛立った。
いつの間にか読んでたマンガを本棚に戻し、ベットに座る花子。
言うならきっと、今しかない。
「オレは負けない。誰にも負けない。赤司にもだ。その為にあいつらよりも練習して努力する。やれることは何でもやる。人事を尽くす。そして日本一になる。だから・・・・・、だから・・・・・、」
オマエも秀徳に行かないか。
かっこ悪いがこれが精一杯だった。
あのとき花子がどんな顔をしていたのか、そもそも花子の顔を見ていたのかさえも、今は思い出せない。それくらいにオレは緊張していた。
だから、何があっても今日ここで黒子に、火神に、誠凛に負ける訳にはいかないのだ。
気合いを入れ直し、ハイタッチをする。
試合スタートだ。
(『真ちゃん、高尾、』)
(「分かっているのだよ。」)
(「オマエは大人しくベンチで待ってな。」)