第39章 ・・・殺す
それだけが原因で気分が悪い訳ではない。
今日の昼休み、私は3年生の松野先輩に呼び出された。人気のない離の棟にある音楽室に行くと、そこには気だるそうにしている人がいた。
「もしかして松野先輩に呼ばれたの?・・灰崎くんも?」
面倒くさそうにギロりと目だけを動かした彼の返事はあぁ、という一言だけだった。少し経つと私たちをここに集めた松野先輩がやってきた。
「ごめんね、遅れて。」
「いえ、だいじょ」
「要件はなんだ?どうせ山田絡みだろ?」
私の返事を遮り食い気味に灰崎くんが被せる。見た目も去ることながら、この言いよう。同じ部活とはいえ少し苦手だった。
「じゃー簡潔に。明日の部活前、体育館倉庫に私が山田を呼び出す。」
そのあと灰崎くんに話す松野先輩の一言に私は耳を疑った。
「・・・え?」
「だーかーらー、呼び出した山田とヤってってお願いしてんの。」
「・・・・・。」
「で、宮古さんには赤司と緑間に気付かれないように部活中見張ってて欲しいの。できるよね?」
「えっと・・・」
ちらっと灰崎くんに目を向けると、彼は悩んでいるような表情をしていた。イエスともノーとも言わない私たちに苛立った松野さんが鼻で笑いながら再び口を開く。
「何よ、根性なしね。宮古さんは兎も角、灰崎。あんた赤司のこと恨んでるんでしょ?聞いたわよ。バスケ部、辞めさせられたんだってね。」
灰崎くんの眉毛がピクリと動く。
ゴールデンウィーク中のある日、黄瀬くんと灰崎くんは1on1をした。その試合に勝ったのは灰崎くんだったが、素行の悪さも相まって赤司くんから速やかに退部するように言われていたのだ。
その日から灰崎くんは全く部活に顔を出さなかった。彼の顔を見れば、その件に関して納得していないということは一目瞭然だった。
「それに加えてあなたまだ山田のこと好きなんでしょ?」
「っ!!」
「良い機会だと思わない?いつも一緒にいる2人にも手伝ってもらってさ。3人で仲良く、ヤればいいじゃない。」
可愛い顔をして怖いことを言う松野先輩に、身の毛がよだつ。これはまずい、いくらなんでもやり過ぎだ。そう思っているはずなのに、辞めましょうの一言も私の口から出ることはなかった。