第38章 一発、ドーンと
『痛いっ・・・・離してってばっ!!』
腕を乱暴に引かれ暗がりの中、やっとの思いで顔をあげる。腕を掴んでいたのは、無冠の五将と称された花宮真だった。そしてそこには他にもう一人立っていた。
そのもう一人とは、私のよく知っている最も会いたくなかった人だった。
『何か用ですか・・・・・・・松野先輩、』
「元気そうで安心したわ、山田。」
中学生の頃よりも更に美しくなっていた松野先輩は、霧崎第一のジャージを着ていた。バスケ部のマネージャーでもしているのだろう。
しかし、先程対戦したときは花宮真同様、松野先輩もベンチには座っていなかった。
「本当に久しぶりね、2年ぶりくらいかな?」
松野先輩とは体育館倉庫での一件があってから今までの間、一度も顔を合わせていなかった。そして全ての嫌がらせの主犯が松野先輩だと知ったのはそのあとすぐのことだった。
最初その真実を赤司から聞かされたとき、息をするのも忘れるくらいの衝撃が私を襲った。松野先輩に憧れ、慕っていた分、そのショックは私の心を抉るのには十分過ぎたのだ。
『っ・・・・・、』
「そんなに怖い顔しないでよ。可愛いお顔が台無しよ?」
松野先輩は私の顎をクイッと持ち上げる。震えそうになる手を力いっぱい握りしめ、松野先輩を睨む。
後ろのベンチに腰を下ろしていた花宮真は、程々にしとけよ、と鼻で笑いながら私たちのやり取りを見ていた。
「まさか山田が、あの緑間に着いて行ったとは思わなかった。あなたは赤司に気があるんだとずっと思っていたから。」
『・・・・・。』
「まぁいずれにせよ、いつまで経っても山田って一人じゃ何にもできないままなのね。・・・あなた自分が陰で何て言われてたか知ってる?」
もちろん知っていた。
あの頃私のことをよく思っていない、赤司に想いを寄せていた女子たちから“まるで金魚の糞”と陰口をたたかれていたことに気付いていた。
その言葉に酷く傷付くこともあったが、バスケに没頭してしまえば、そんな陰口など気にならなかった。
しかしよくよく考えてみれば、いつも私を助けてくれたのは真ちゃんと赤司であり、松野先輩の言う“一人じゃ何もできないまま”というのはあながち間違いでもないのかもしれない。