第34章 ごめん、許してくれ
「・・・いっそのこと殺してしまおうか。なぁ花子どう思う?」
『はぁっ・・・・・はぁっ・・・・・・、』
もちろん返答はない。当たり前かと自嘲気味に鼻で笑ったとき、今しがた無意識に自分の口から出た言葉にゾッとした。
・・・殺す?オレは何を考えているんだ。そんなことどんな理由があっても許されやしない。花子のこんな姿を見せられきっとオレも冷静じゃないのだろう。
殺すなんてバカげている。
そう思っているはずなのに心の奥の方にいる誰かがオレを煽る。
「“好きなオンナがこんなに傷付いてるのに、オマエは平気なのか?”」
「平気な訳ないだろっ。」
「“じゃー殺してしまえよ。そんなやつ。そいつが居なくなれば大好きな花子はもう傷付かないぞ?”」
「うるさいっ、黙れよっ!!」
自分でもびっくりするくらいのオレの大きな声が、更衣室に響き渡った。
・・・オレは誰と会話していたんだ?
苛立つ感情を抑えるように強めに花子を抱き寄せた、そのときだった。
『・・・はぁ、・・・・・真ちゃんっ、』
「花子っ、聞こえるか?」
『・・・はぁっ・・・・・・・・・はぁっ・・・・、』
「・・・・・譫言まで緑間が先なんだな、花子は。」
いつだってそうだ。
花子の目にはいつだって緑間が写っていて、オレはそのおまけ。分かっていたはずなのに、今このタイミングでのそれはオレの心をかき乱すのには十分すぎる一言だった。
「ごめん、許してくれ。」
火照った頬に手を添え親指で唇をなぞり、そこに自分の唇を優しく押し付けた。