第33章 赤司が大きくなったんだよ
「あと30分でコート入るからそれぞれ準備して。」
部長の一言でロッカールームは一気に慌ただしい空気になる。そして一段と怖い顔をしている監督がトイレも済ましておけよ、と付け加えるように言い放つ。
女子の決勝は11時からスタート。続いて男子の決勝は14時からだった。
慌ただしく何人かがトイレへと向かって行った。後を追うように私もトイレへ向かった。
お気に入りのバッシュを脱ぎ、トイレ用の履物に履き替えたとき水道で手を洗う松野先輩に声をかけられた。
「山田、緊張してない?大丈夫?」
『すいません、ちょっと緊張してきました。』
やっぱりね、と松野先輩はクリっとした大きな目を輝かせて私を見つめる。
・・・化粧してないのにやっぱり可愛いなぁ。
松野先輩の美貌にうっとりしていると、優しく頭を撫でられた。
「山田なら大丈夫だよ。いつも通りやれば。」
歳は1つしか変わらないはずなのに、包み込むような優しさで声をかけてくれる先輩は頼れるお姉さんそのものだった。
「・・・私の分まで頑張ってね。」
『はいっ。頑張りますっ』
松野先輩はベンチ入りしていたが、先程ロッカールームで発表された今日のスタメンに選ばれたのは部長含む3年生4人と私だった。
もちろんベンチに入れない沢山の部員の気持ちを背負って試合に出ていることは理解していたつもりだが、面と向かって自分の分まで頑張れと言われるとより一層気持ちが引き締まった。
トイレを足早に済ませ、手を洗ったあとに私は冷たくなった手で両頬を少し強めに叩いた。
トイレ用のスリッパを並べ、お気に入りのバッシュを履く。
・・・たまには真ちゃんみたく右から履いてみようかな。
なぜ急にそんなことを思ったのか分からないが、右足からバッシュを履き、バッシュに左足をいれたとき、土踏まずからかかとにかけて激しい痛みに襲われた。
『いった!!』