第5章 岸優太の憂鬱
「おとうさん、おとうさん」
先を歩く父親の背中を、
俺は必死に追っていた。
俺の左側には、まだ幼い妹がいる。
「おとうさん、まって」
そう叫んでも、
父親は立ち止まるどころか
振り返ってもくれない。
俺は涙を流した。
……ずっと、母親がいる家庭が
羨ましかった。
物心ついた頃から俺には
母親がおらず、
父親と兄、妹と暮らしていた。
中学の頃、今の事務所の仕事を
こなしながら料理を覚えた。
でも始めは上手く作れなくて、
焦がした卵焼きを
妹のお弁当に入れてしまった事がある。
ごめん、焦がした
そんな言葉に、妹はただ笑って
“美味しかったよ”って言ってくれた。
苦しかった
嬉しかった
そんな幼少の頃。
だけど、
やっぱり憧れは消えない。