第3章 それぞれの葛藤
ヒートの薬を打った後、
アルファは呼吸を整えるまでに
時間がかかる。
この過程を見られるのが嫌で、
俺はいつも一人きりで
薬を打つようにしている。
衝動的なものなのだろうか。
普段は、極力強い匂いを放つ
オメガに出くわした時にしか
なった事が無かったから、
少し戸惑ってしまった。
「……はぁ、よし。もういけるかな」
使い捨ての注射器を
ゴミ箱へ捨て、トイレを出る。
すると、目の前でスルリと
綺麗な髪が揺れた。
「うわ! ビビった!」
「え? あ、永瀬くん!
お疲れ様です!」
通り過ぎようとしていた
勝瀬さんが、振り返り、
大きな目を見開いて俺に言った。
「早かったっすね」
「みんな待たせちゃいけないって
思ったので、車飛ばしてきました!」
グッと拳を作りガッツポーズな
彼女を見て、
俺は自然と顔が綻んだ。