第8章 溢れる幸せと自分の役割
「海水の花畑(シャン・ド・フルール・デ・オセアン)!!」
ノエルの詠唱に合わせるように、海水が華の形に浮かび上がる。ぎゅっと手を握ると、それは一直線に少佐(仮定)の元へと飛んできた。
海水の花畑は、その名の通り海水を操る。水の王では、海水の成分中の真水を操るしか出来なかったのだが、オドを使えば、海水ですら操れる。
「ぐっ…………!!」
弱った少佐(仮定)の拘束から離れた瞬間、オドを手首で暴発させ、海楼石の錠を壊した。
「水の王!」
海流を操り、ポーラータング号を軍艦から遠ざける。
「おい待て!! ノエル!!」
「ごめんロー、みんな。今はこれが最適手段。必ず……帰るから!! 忘れないでね、約束」
「ノエル!!」
ローはROOMを展開させるが、ギリギリ届く範囲ではなかった。
「私は、ハートの海賊団の船員でいれて、幸せだよ!」
右腕を空高く掲げ
「星屑(アマ・デトワール)」
静かにその腕を下ろした。
「クッソガキ…………!! おれの夢を壊しやがって……!!」
海水に濡れた少佐(仮定)は、気が狂ったように怒り出す。
「あなたのそれは夢なんかじゃない! そんな汚れた執念と、夢を、一緒にしないで!!!」
その気迫に、海軍兵達は気を失ってしまった。
軍艦にはノエルと少佐(仮定)のみが立っている。
突然、空が赤く光った。見上げれば、軍艦の半分程もある石が落ちてきている。
「慈悲なき霜(ミゼリコルド・パー・ジーヴル)」
軍艦の周りの海を霜で固めた。どう足掻いても逃げ切ることは困難だろう。
(翼、いつでも出せるようにコントロールの練習しておくんだったな……!)
これでは生死が五分五分だ。今更焦り始めるノエルだが、もう遅い。
隕石は軍艦に直撃した。
爆発し、炎上し、轟音が響き渡る。
それを目の当たりにしたハートの海賊団の船員達は、絶句している。
隕石落下の衝撃で発生した津波に巻き込まれながらも、誰もその場を離れなかった。
ローはノエルが持っていた本を握りしめたまま、呆然としていた。
再び爆発が起こり、ひらりと何か白い物がイッカクの元に落ちてきた。
それは、純白の一枚の羽。手に取り、胸元で抱きしめたイッカクは、空に向かって叫んだ。
「ノエルちゃあああああああん!!」