第4章 芽生えた気持ち
この数日、ノエルはローをこれでもかと言うほど避けまくった。廊下で姿を見れば壁に隠れ、声をかけられそうになると逃げ……と、とことん避けた。
「船長だいぶ寂しがってたよ。声には出さないけど、態度が寂しそうだった」
「そう、なんだ」
熱は下がったのだが、念のためもう一日休んでいるノエル。彼女が退屈しないように、ペンギンが話し相手になっていた。リンゴを剥いてやると、ノエルは嬉しそうに笑っている。ペンギンの兄心に火がつき、ウサギリンゴにした。
「ペンギンすごい!! 可愛い〜!」
「ハハッ、可愛いだろ。ホラ、また剥いてあげるから食べなよ」
「うん、ありがとう」
しゃくりと一口齧る。甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がった。
「今は四季島を出て、この間の俺達が出会った島に戻ってる。ログもたまらないなんて、不思議な島だよなぁ」
「四季島はそういう島だから。あ、そうだ! ペンギンにお金返さなきゃって思ってたんだ!」
ベッド脇の荷物の中からお金が入っている袋を出し、ペンギンにきっちり借りた分を返した。ちゃんと別の袋に入れている辺り、気が利いている。
「ありがとうノエルちゃん。なんか随分と宝が入ってる気がするんだけど……」
「ああ、これ? お母さんが昔海賊から巻き上げたんだって。万が一四季島に近付かれたら困るからって」
「お母さん意外とアクティブだな⁉︎」
そう突っ込むと、ペンギンはある考えが浮かんだのだが、聞くのを躊躇い話を変えた。しばらく話をして、ペンギンは部屋から出て行ってしまった。
「ふぅ…………退屈だな」
ベッドに横になって、天井を見上げる。眠くはないが、眠ろうと目を閉じた瞬間。
「ノエルの熱は下がったのか?」
ローの声が聞こえてきた。心臓がまたドクドクと鳴り出し、顔に熱が集中するのがわかる。抱きしめられた時、ローは名前を呼んでくれた。思えばあれが初めて呼ばれた時だった。
(名前……呼ばれて嬉しかった。また呼んで欲しいな)
「ノエル」
ローの声で名前を呼ばれるたび、心が温かくなるのは、きっと気のせいではない。ドキドキするから顔を合わせないようにしていたのに、いつの間にか会いたくなっていた。
(こっち来ないで、なんて言っちゃったけど、ほんとはこっちに、来て欲しい。顔が見たくなっちゃった)