第2章 ハートの海賊団との出会い
ペラリと本のページをめくる音で目が覚めた。
ゆっくりと体を起こすと、先程とは違う場所にいる事に気が付いた。
「起きたか」
振り返ると、長身の男がこっちを見ていた。しかしその目は先程とは違ってどこまでも優しい。
「あの……」
それに気付かずノエルは警戒する。それもそうだ。薬品を嗅がせた時の彼の目は、とても鋭いものだったから。
「悪かった」
突然聞こえた謝罪の声に心底びっくりする。
呆然としているノエルに、ローは話し続ける。
「海軍の手先か疑ってた。まさか四季姫だとは思わなくてな」
彼の口から四季姫という言葉が出てきた事が信じられなくて、ノエルはより一層警戒する。
「どうしてそれを……!!」
スッとローが手にしたのは『しきひめさま』の絵本。それを見たノエルは、あっ、と声を漏らす。
「お前、ここに書かれてる四季姫なんだろ? 亜麻色の髪に、アメジストみたいな瞳。どっからどう見ても四季姫だ」
「そう、だよ。私が四季姫。あと、そこの本も、私が書いたの」
指差す先にあるのは『四季島と四季姫』先程ローが読んでいた本だ。書いた本人が目の前にいるため、ローはほんの少し驚いた。
「お前、おれの仲間にならないか?」
いきなりの発言に、へ? と間抜けな声が出てしまう。何故彼はこんな事を言ったのだろうか。自分を中身にしたところで、海軍に狙われるのはわかってるはずなのに。
「おれは海賊だ、お前が一人増えたところで何も変わらない。行くあてはないんだろ? だったらおれらの船にいりゃいいじゃねーか」
「海賊⁉︎ あなた、海賊だったの⁉︎」
「ああ、死の外科医って通り名がついてる」
ならば、遠慮する事は何もないのではないだろうか。ノエルはしばらく考え、ようやく口を開いた。警戒は、すでに解いていた。
「うん、なる。私をあなたの仲間にして、ロー」
ふわりと微笑んだその表情にどきりとするも、ニヤリと口角が上がった。
「あれ……?」
まだ薬が切れていなかったのだろうか。ノエルの体が倒れていく。ローはすぐさま駆け寄って、倒れる寸前に支え、ベッドに寝かせた。
「世話の焼けるお姫様だな」
ローは気付いていない。ベッドの上なのだから倒れても問題なかったことに。自身の顔が優しい事に。
空には無数の星が煌めいていた。