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【文スト】スケッチブック

第1章 出会い


勧められた庭にきた中也はキョロキョロと周囲を見渡した。
日の沈んだ時刻にもかかわらず暖かい光が要所々々を照らしており、幻想的な風景を醸し出している。
大きな池の回りには花が咲き乱れ、池の向こう岸には景色をゆっくり見るためかベンチとテーブルが設置されており、石で出来た橋が其処まで繋いでいた。


姐さんが気に入りそうだーーー


そんな事を思いながら何気無しに橋を渡る中也。


………ん?何だ、コレ。


そして、渡りきったと同時に目に入ったモノーーー
誰も居ないテーブルに置かれている画板とそれに挟まれた画用紙に目を奪われた。

描かれていたのは今見ている、この庭の景色ーーの昼の顔だろう。
写真まではいかずとも正確に模写されたその絵は、水彩画特有の柔らかい印象を纏っている。



綺麗だな……。


上手、下手ではなく素直にそう思えた絵をジッと見ていると中也は後方に人の気配が近付いてきていることに気付く。
直ぐに振り向きたいところではあるが、あくまでも「モデル」と云う立場で此所にいる事を忘れるわけにはいかないため、然り気無く其方を向こうとした時だった。


「もうすぐ完成~♪そしたら夜バージョンも描きましょう~♪」


何処かで聞いた声が遠くから聴こえる。


中也はゆっくりと声のする方を向いた。
橋より少し向こう側に人影が1つ。
ハッキリとは見えないが、何かを持ったその人物は格好こそ違うものの先程出会った少女に間違いないだろう。


「!?」


その少女は橋を渡ろうとしてピタリと止まった。
そう。顔が中也の方を向いていることから「誰か居る」事を認識したのだろう。

「っ!」

少女はクルッと方向転換すると、来た道を引き返していってしまった。
中也は一応、手を伸ばして呼び止めようとしたのだが、何処に敵の目があるか判らないこの状況で「設定」を無視するわけにはいかず、その少女を見送ったのだった。
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