第1章 あの頃
「...奴はそんなに厳しいのか?」
「え...?」
てっきりエレンは、リヴァイがサシャについて何か言うであろうと思っていた為、彼がキースについて尋ねてきたことに少々驚いた。
「シャーディス教官は...はい、とても厳しい方です。俺もよく怒鳴られました」
「そうか...」
「リヴァイ兵長が訓練兵だった時には、少し違ったのですか?」
リヴァイがシャーディスについて尋ねたのは、彼が訓練兵だった時の印象と今とでは、なにかしらの差異があったからではないだろうかとエレンは考えた。リヴァイが訓練兵の時は、今から約20年程前ということになる。昔のキースについて、エレンは少し興味が湧いた。
鬼教官である彼は、昔、どんな人物だったのだろう。
「エレンよ、俺は訓練兵団を出ていない」
「...え?」
エレンは予想外の返答に驚いた。
「どういうことですか?」
「まぁ...なんだ、色々あってな。俺が地下街出身なのは知ってるだろう。そこで俺はエルヴィンに調査兵団へ引き抜かれた。その時の団長がキースだ。俺は団長だったやつしか知らねぇ」
「そう、だったんですか...」
リヴァイはふと、廊下にある窓から晴れた夜空を見上げた。雲一つない、満天の星空である。
今はもう見慣れた空も、昔はそれを見ることに憧れていた。黒い天井ばかりを見上げ「空を見たい」と呟いていた、あの二人と共に__
「兵長、地下街って...どんな所なんですか?」
リヴァイは空から目を離し、エレンを見た。
好奇心の湧いた大きな瞳は、あの赤髪の仲間の瞳を彷彿させる__そう、イザベル_。彼女の最期は、もう...首だけだった。
「聞いて胸糞いい場所じゃねぇよ...」
リヴァイは声のトーンを落としてそう言った。あの地下街で、幸せに暮らしていた者はいないだろうから。
「でも...」
「ガキはもう寝ろ、明日は早いぞ。...まぁ、なんだ、機会があったら話してやるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
エレンは嬉しそうにそう言って、ペコリとお辞儀をした。
子供の頃から地下街とは無縁の生活を送っていたエレンにとって、それは近くにあるのに全貌がわからない、不思議な空間のように捉えられていたのだ。
そんな場所の出身者である人類最強の男から、地下街について話が聞けることはエレンにとって、とても嬉しく感じられた。
