第1章 あの頃
そんなことを考えている内に、程なくしてリヴァイも執務室に現れた。
もう夜も深い。彼は兵服ではなく黒を基調としたシンプルな私服に身を包んでいた。小柄だがどこか迫力があるのは、積んできた過酷な経験によるものだろうか。
「なんだエルヴィン。こんな遅くに」
ぶっきらぼうな言い方で、表情を変えずにそう言うリヴァイ。もともと、明日は調整日の予定だ。いつも多忙であろう兵士長にとっての休日は非常に貴重である。その前日くらい休ませてほしいものなのだろう。
「悪いなリヴァイ。だが重要な報告がエレンからあってな...」
エルヴィンはエレンの報告内容を簡潔にリヴァイに伝えた。明日も休めないということを聞いた時は、あからさまに不機嫌な顔になったリヴァイだったが、彼も事の重要さは重々承知していた。
最後には「了解だ、エルヴィン」と二つ返事で承諾した。
「夜間に集めて申し訳ない、各自仮眠を取ってくれ。明日私は王都に招集されているので同行できないが...エレン、頼んだぞ」
「...はい!」
そうして3人はエルヴィンの執務室を出た。
「っあ〜!さてと、研究室に戻るか!」
ぐっと伸びをするハンジはまだこの後も休まないようだ。
「ハンジさん、少しは休まないんですか?」
「いいや。今は研究の方が優先だ。リヴァイがケニーから託された巨人化の薬の成分解析を、もう少し細密にできないものかと思っていてね。
...それにエレンの硬質化の力についても、まだ不透明なことが多いし。あ!前のように巨人化の力を酷使させるようなことはしないから!」
「俺は大丈夫ですけど...」
ハンジはよく研究に没頭して寝食を忘れる。一度集中すると、他の者がなんと言おうと自分が満足するまでそれを極める。それがハンジの性だ。
しかし人間誰しも、数日間眠らないと体が悲鳴を上げる。そうなってしまっては分隊長としての執務をこなせない。そこをカバーしているのが、我を忘れたハンジの制止役を務めるモブリットである。
「モブリットさん、心配されてましたよ...。分隊長はまた寝てないって」
「ははっ申し訳ないねぇ〜、彼はよくやってくれてるよ。でも最近はどこぞの兵長みたいに掃除しろ掃除しろってうるさくってさ!」
「おいクソメガネ、お前の部屋は誰がどう見ても掃除したくなる荒れ具合だろ。まるでゴミ溜めだ」
「ひどいな!」
