第2章 腹筋
「おいミカサ!あんま近くで見るなよ、動きにくいだろうが!」
「でもエレン...!」
「何なんだよこの死に急ぎ野郎が!羨ましぃ!!」
エレンたちのトレーニング部屋のすぐ近くまで来たとき、中から騒がしい声がした。
目の色を変えてエレンの腹筋を見に走っていったミカサは、お目当てのエレンを見れたようだけど、その距離が近すぎてエレンに煙たがられている。それを苛つきながらも羨ましく見ているジャン、といったところかな...。
アルミンは部屋の中の様子を見る前に、声だけでなんとなく状況を想像した。そしてドアを開ける__
__ビンゴ。
アルミンが考えた通りのことが繰り広げられていた。
「アルミン!戻ってきたか。ちょ、頼む、取り敢えずミカサを離してくれ!」
「はぁ!?何言ってんだイノシシ野郎!感謝しろよこの状況をよぉ!!」
「いや...、お前さっきから何言ってんだジャン」
ジャンのいたたまれなさに、アルミンは思わず苦笑した。
エレンはとことん‹そういうこと›に疎い。恋だの何だのはどうでも良くて、巨人の駆逐が彼の人生の最優先だ。
エレンに真顔で引かれているジャンの心情を察すると、流石に胸が痛むアルミンであった。
「ミカサ、それじゃあエレンが筋トレしにくいよ。もう少し離れなきゃ」
ミカサは半裸のエレンの腹にスレスレの距離で、その腹筋を凝視している。もはや一抹の恐怖を感じるレベルだ。だがそんな彼女にも慣れたアルミンは、ズルズルとエレンの腹から引っ剥がす。
「あぁ...エレンの腹筋が...」
「ったく、まともに筋トレもできやしねぇよ...」
滴る汗をぐいと腕で拭い、立ち上がって水を飲むエレン。
そしてそんなエレンを恨めしそうに睨むジャン。傍(はた)から見ていれば面白い二人である。
ふっと笑みをこぼしてから、アルミンはミカサに向き直り本題に入った。
「ねぇミカサ。ちょっと頼みがあるんだけど...」
「何?」
「ミカサの筋トレ方法を教えてくれないかな」
「方法?そう...参考になるか分からないけれど、教えよう」
ハンジさんのアドバイスどおり、いいやり方を得られるかもしれない、そうすれば僕も腹筋を...!
アルミンは人知れず心の中で意気込んだ。